代償の話 その2

この間、テレビを見ていたら、スーパーで売っているサラダにカエルがはいっていたとかで騒いでいた。

まあ、確かにサラダにカエルが入っていたら気持ち悪いし、びっくりしてしまうけれど、だからといって、テレビで大騒ぎするほどのことかどうかはよく考えたほうがいい。

もちろん、工場が不衛生で、その不衛生な環境からさまざまな生物が食品に混入する確率があるとしたら大問題で、たとえば、工場の中に大量のカエルやら何やらが生息していて、それがちょっとしたことで混入する環境なら大問題であることは間違いないけれど、誰がどう聞いたって、「それって野菜にくっついてたんですよね?」みたいなことに違いない。

もちろん、それにしたって、気持ち悪いに違いないし、ちゃんと排除しなくちゃいけないんだけど、こういうのを果たして「システムの問題」とか「洗浄過程の見直し」みたいなことで語っていいのかどうか。

当たり前だけれど、そういうミスのないシステムを作ればコストがかかる。人手を増やすにしても、機械を導入するにしても。

つまり、ある程度ミスが起こるとしてもコストを抑えていくべきなのか、完璧なチェックをするためにコストが上昇し、高い食品を購入することになるのかは、僕たち騒ぐ消費者による。

もちろん、それに高いコストがかかるとしても命が関わってくる問題になるとまた難しくて、ミスを起こしてしまえば命が失われる…となると、もうひとつ別の判断も必要になる。

強風で脱線事故を起こしたJRの時がそう。風速40Mとかって予見ができないような突風が吹いて事故が起こる。そういう風を感知して自動で止めるシステムがあるらしいけれど、めったに吹かないそういう風のために、いたるところにつけるのかっていうのは議論になる。

まあ、当然つけられないわけで、だからそれ以降、一定の風が吹くと、鉄道は運行をやめることが多くなった。そういうリスクのある場所ではシステムがない以上、走らせられないわけだ。

それに比べると、サラダのカエルはだいぶかわいらしい。

なんとでもできそうな気がするが、それでも「代償」について考えてしまう。

まあ、そんなことを言ったところで、時間が経てば大部分の人は忘れ去ってくれるだろうからいいのかもしれないけれど、きっと炎上していたころの当事者は、大変だったろうなあと思う。

自分の子どものころの思い出に、部活帰りのスーパーで、値引きされたドーナツやらシュークリームやらを買って、食べたという記憶がある。

今の子どもたちは、平気でスタバ行って、なんちゃらフラペチーノを飲んだりしてるけど、僕らにとって缶ジュースでさえ飲めなかった。50円のアイスか、30円のお菓子か。でも腹の減った男子からすれば、同じような値段で置いてあるシュークリームやらドーナツがあれば、とびついて買ってしまう。

時代なんだと思うけれど、それは当然賞味期限が「切れて」いて、そのリスクを承知でぼくらは買った。

シュークリームを食べると舌にとげがささるような痛みがして、ふと見ると安いカスタードクリームが、高級な生クリームとカスタードクリームの二層のやつみたいに、白いカビが生えていた。

それでもぼくらは「負けた…」とかいいながら、店にクレームを入れることもなく、値段相応のリスクを改めて認識する。半額どころではなく、本来100円ぐらいするものを20円ぐらいで手に入れようとした自分のあさましさを反省したものだ。

そして、賞味期限をすぎたクリームは危険だということを学び、ドーナツに手を出し、砂糖がレモンに似たすっぱさになることを知ってまた、あらたな危険を学んでいく。

要するにおおらかだったのだ。

それがいいわけではない。だってくさってるのを売るのはやっぱり問題だから。

でも、今だったら、どんなに安い値段で手に入れても際限なくクレームを入れて、きっと、そのコストのしわ寄せがどこかにいって、めぐりめぐってこの賃金の上がらない世の中を作っていると思うと、いたたまれなくなる。

僕らはある程度のリスクを許容して、だからといって、カエルが入ったサラダ食べろと言ってるんじゃなく、持ってって代わりのものもらって、頭下げられて、もしかして無料にしてもらったりとかあるいはおわびに何かちょこっとつけてもらったら、ラッキーと思えばいい、というそういう話だ。

「代償」はふさわしいものでなければ。

にもかかわらず、代償を求めていると、サラダの値段は高くなる。

でも、高くなると人々は買わない。みんなが一斉に高くすればいいけれど、消費社会はそうはいかないので、「カエルが入るなんてめったにないから、リスク対策しなくていいや。その分安くしとこう。」という業者が抜け駆けして、結局それが売れる。

もちろん、消費者が厳しくて代償を求めるとそういう業者は、問題を起こした後、淘汰されるわけだけれど、それを見ていた他の業者は、リスク管理をしながら安い値段で売りたくなる。新しい機械は高いし、人を増やすとコストに影響するから、今の人員で、今の機械のまま、作業を増やす。給料あげるとコストに影響するから、それもしない。

かくして、給料は上がらないけれど仕事が増え、で、だからこそ、安くて安全なサラダを食べたくなるわけだけれど、結局、本質的にはどっちも自分たち自身の問題であることを認識しないとまずいよねって話。